近年におけるデジタル化の波はあらゆる分野に到来しており、教育分野にも革新をもたらしています。特に、大学分野におけるAI(Artificial Intelligence :人工知能)を活用したDX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが盛んです。しかし、DXは多くのメリットをもたらす一方で、AIの発展速度は人々の予想を大きく超えており、現在、多くの大学がデジタル化への対応に追われている状況です。
本記事では、AIを活用した大学DXに焦点を当て、デジタル時代における大学教育の在り方を、具体的な事例を交えて詳しく解説していきます。
AIとDXの概要
AIとは
AIは、コンピュータなどで人間の脳が行っている認識や思考、学習といった活動を、コンピュータなどで模倣して再現したシステムです。コンピュータやロボットに学習能力や思考力、データ処理能力を与えることで、人間に近い活動を行うことが可能となります。現代のAI技術は著しい発展を遂げており、翻訳や自動運転、囲碁など、多岐にわたる人間の知的活動で重要な役割を果たしています。
成長の一途をたどるAI市場
総務省が公表した「令和5年版 情報通信白書|市場概況」によると、2022年に3,883億6,700万円であった日本のAIシステム市場規模(支出額)は、2027年には1兆1,034億7,700万円まで拡大すると予測されています。こうした背景から教育分野を含む多くの業界で、AIを活用したデジタルシステムの導入が進んでいます。
DXとは
DXは、デジタル技術を活用して組織の運営やサービスを根本から変革するプロセスを指します。教育分野におけるDXは、従来の教育モデルをデジタル技術によって再定義し、より効果的かつ柔軟な学習環境を創出することを目指しています。新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけとしたリモート学習の普及は、大学DXを急速に促進させ、その有用性を明らかにしました。AIを活用したDX化は学習者への利便性を高め、学習の質を向上させることが期待されています。
文部科学省が推進する大学教育のDX化
大学教育のDXに関する指標は、文部科学省によって設定されています。
大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)
文部科学省のDX推進プロジェクトである「Scheem-D(スキーム・ディー)」は、大学職員や企業が共同で、教育現場にデジタル技術の普及を目指す取り組みです。同プロジェクトでは、大学の授業の推進や教育改善に焦点を当てており、学習成果の向上を目指しています。具体的には、サイバー空間と現実空間の組み合わせを通じて、授業の価値を最大限に引き出すことを目標に、ピッチイベントなどの活動を実施しています。
デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン
文部科学省は、2021年度において「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」を打ちだしました。本事業の目的は、ICT教育の普及による学校教育の高度化です。対象になるのは国公私の大学・短大・高専であり、デジタル技術活用に必要な環境整備費が、国により支援されました。具体的に、VRシステムを用いた実験や実習の実現、AIによる学習管理システムの導入などが推進されました。
デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業
「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」が推進している取り組みは、DX教育設備を活用した教育カリキュラムの開発や実験・実習の高度化です。デジタルと専門分野の教育を進めることによる、日本産業のデジタル化をけん引する高度専門人材育成の加速を目的としています。
本事業により、デジタル技術やデータ分析を実践する実験・実習カリキュラムが高度化され、DX人材の育成が加速しました。
大学DXにおける最新AIの導入
文部科学省による大学DXの推進により、多くの大学で最新AIが導入されています。
RPA
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、人間が手掛けている日常的な作業や、より複雑なタスクをロボットを使って自動化する技術です。RPAはルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を組み合わせて活用し、人間の代替として機能させることで、大学運営の効率化や省人化を実現します。
全国の大学に先駆けてRPAとAIを組み合わせての利用を開始した大学の一例として 早稲田大学が挙げられます。主にRPAを導入しているのは支払請求伝票や振替伝票の入力の工程で、AIによる勘定科目の類推などを利用し、作業の自動化に取り組んでいます。その他、臨時雇用業務の申請チェックにもRPAを活用することで、業務の効率化を進めています。
参考:早稲田大学におけるRPAを中心としたDXの取り組み状況
関連記事:【2024年版】大学DX化取り組み実態調査レポート|早稲田大学のデジタル化事例紹介
AIチャットボット
AIチャットボットの導入は業務効率化と人件費削減に効果的な取り組みです。AIチャットボットは、蓄積されたデータを元に、最適と考えられる回答を自動学習により導き出します。大学の公式ホームページにAIチャットボットを導入することで、対人対応が必要な問い合わせの削減につなげられます。
AIチャットボットを導入した大学の一例として、2021年8月より同機能を導入した立教大学が挙げられます。本大学は、コロナ禍に伴う授業形態の変更により、学生や職員からメディアセンターへの問い合わせが急増し、通常業務が圧迫される事態に直面しました。こうした状況を踏まえ導入されたAIチャットボットが、定型的なお問い合わせに自動対応することで、大学職員の業務効率を向上させられます。
参考記事:立教大学「AI型チャットボット」を導入
関連記事:「【2024年版】大学DX化取り組み実態調査レポート|立教大学のデジタル化事例紹介」
生成AI(生成的人工知能)
生成AIは、さまざまなコンテンツを生成できるAIを指します。従来のAIの性質は、学習済みのデータの中から適切な回答を探して提示することです。それに対して、生成AIは、データのパターンや関係をAI自身が学習し、新しいコンテンツを生成します。教育現場に生成AIを導入することで、学生は論点整理や、情報収集などに活用し、個々の学びを深めることが可能です。
同志社大学は、西日本電信電話株式会社 (以下、NTT西日本)、株式会社NTT EDX(以下、NTT EDX)と、生成AIを活用した教育・学習支援に関する共同実証の連携事業を実施しています。生成AIは、「Azure OpenAI Service(アジュール オープンエーアイ サービス)」を採用し、また、電子教科書として、NTT EDXの電子教科書配信サービス「EDX UniText(イーディーエックス ユニテキスト)」を活用しています。
生成AIと電子教科書の親和性は高く、効果的で利便性の高い学習環境を提供可能です。加えて、電子教科書を生成AIの学習源として利用することで、AIを活用する学習環境の信頼性を高められます。
参考サイト:NTT西日本「NTT西日本、同志社大学、NTT EDX、教育・学習活動への生成AI活用実証事業スタート!
~教育・学習向け生成AIを活用した新たな「教えと学び」の仕組みづくり~」
関連記事:【2024年版】大学DX化取り組み実態調査レポート|同志社大学のデジタル化事例紹介
大学における生成AIの取り扱い留意点
近年、ChatGPT等に代表される高度な生成AIの利用者が急増しており、大学教育における活用可能性やリスクなど正負両面の影響も指摘されています。大学の教育活動に生成AIを活用する際には、以下の点に留意することが大切です。
生成AIと学生の成長
大学側が、無制限に生成AIの使用を許可した場合、学生の成長を阻害する要因となる可能性があります。大学における学習は、学生が主体的に学ぶことが本質であり、生成AIにより出力された文章をそのまま用いた場合、学生自身の学びを深めることにつながりません。
学生がレポート等に生成AIを活用することを許可する場合には、適切な学習成果を測定する評価方法の工夫が必要です。例えば、運営側が生成AIを活用した旨や生成AIの種類・箇所等を明記することや、小テストや口述試験等を併用するなどの対策が考えられます。
生成AIの技術的限界
大学は、生成AIの技術的限界について理解しておくことが大切です。生成AIは、テキストデータから文法や文の流れ、一定のパターンを学習し、新たな文章を生成します。そのため、生成AIの正確性は、生成AIに蓄積されたテキストデータの量で左右されます。
しかし、生成AIにおける日本語のテキストデータは英語に比べて大幅に少ないです。そのため、現在の生成AIにより出力された日本語の文章は、内容に虚偽が含まれていたり、バイアスがかかっていることがあります。こうした生成AIに関する技術的限界を把握した上で、学生へのインターネット検索等と同様に、大学の運営側は出力された内容の確認や裏付けを行うこと必要があります。
機密情報や個人情報の流出・漏洩等の可能性
生成AIへの入力を通じ、大学内の機密情報や個人情報等が意図せず流出・漏洩する可能性があります。そのため、機密情報や個人情報等の生成AIへの安易な入力は避けることが大切です。教職員が生成AIを利活用する際には、各大学・高専における情報セキュリティに関する指針や、個人情報保護法を踏まえた対応が求められます。
著作権の確認
他人の著作物の利用について、著作権法に定められた権利(複製権や公衆送信権等)の対象となる利用(複製やアップロード)を行う場合には、原則として著作権者の許諾が必要です。AIを利用して生成した文章等の利用により、既存の著作物に係る権利を侵害しないように留意する必要があります。
一方で、学校その他の教育機関での授業においては、著作権法第35条により許諾なく著作物を複製や公衆送信することができます。学生や教職員がAIを利用して生成したものが、既存の著作物と同一又は類似のものだったとしても、授業の範囲内で利用することは可能です。
AIの進化に伴う今後の大学教育の在り方
生成AIを始めとした近年のAIの急速な進化は今後も予想されます。そういった社会の変化に伴い、大学教育の在り方も変化していくことが見込めます。
AIによるパーソナライズ教育の展開
AI技術を教育現場に取り入れることで、学生一人ひとりにパーソナライズされた学習コースを提供することが可能です。AIが学生の学習履歴、理解度、興味・関心などのデータを分析することで、それぞれに最適化された教材や学習活動をカスタマイズします。パーソナライズされた教育は、学生の学習意欲を高めるだけではなく、それぞれのポテンシャルを最大限に引き出せます。
しかし、こうした教育方法では、データプライバシーの保護や、過度なAIへの依存により生じる学習の偏りなど、考慮すべき課題も存在します。
研究のクオリティと効率の向上
AIの進化は、今後の大学教育において、研究のクオリティと効率を根本から変革する可能性を秘めています。AI技術を活用することで、研究データの分析や文献レビュー、実験計画の最適化などの作業を高速化でき、研究者はより創造的な研究活動に時間を割り当てられます。また、AIによる新しい研究手法の提案も可能になり、学術界における大学の競争力が一段と高められます。
グローバルな教育ネットワークの構築
AIの進化は、今後の大学教育においてグローバルな教育ネットワークの構築を加速させる重要な役割を担います。AIとデジタル技術の進化は、地理的な制約を超えた教育の提供が可能です。例えば、リアルタイム翻訳機能によって異なる言語を話す参加者同士のコミュニケーションが容易になり、国際的なコラボレーションや学習が促進されます。
学生は世界各地から集まる多様な視点に触れることで、広い視野と深い洞察力を育み、国際社会で活躍するために重要な資質を身につけられます。AIの進化による教育のグローバライゼーションは、未来の大学教育にとって、地理的限界のない学習機会の提供を可能にします。
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まとめ
本記事では、AIを活用した大学DXに焦点を当て、デジタル時代における大学教育の在り方を、具体的な事例を交えて詳しく解説しました。大学DXを成功させるためには、生成AIなどの最新AIの留意点を明確にして、効果的な対策を行うことが大切です。
RESERVA.acでは、大学のDX化に関する記事を今後も取り上げていきます。
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