高等教育機関である大学において、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが進んでいます。オンライン授業もその一例で、PCとインターネット接続があれば、キャンパス外からも授業に参加できます。もともと一部の大学では遠隔授業が行われていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、オンライン授業の普及は加速しました。この変化は、移動の時間やコストを削減し、より柔軟な学習スタイルを可能にします。
しかし、大学には独自性があり、私立や国立大学など各校の財源や専門性、教職員と生徒のDXやICTに対する理解度は大きく異なります。この記事では、DX化に積極的に取り組む先駆的な大学に焦点を当て、独自の評価基準に基づき、その取り組みを評価し、要点を簡潔に紹介します。
大学DX化の取り組みと方法
目的と方法
今後DX化に向けて取り組む大学に向けた情報発信を目的として、DX化に積極的に取り組む大学における「DX化の現状」と「DX化に向けた課題」を整理し、実際の事例や画期的な取り組みをピックアップして解説していきます。
「DX化の現状」について、当社では、取り組みの進行度やDXの充実ぶりを可視化するために、当社予約システムに関する全国の大学からのご相談、お問い合わせ、受注実績やノウハウを基にして、大学におけるDXの取り組みについて、30の評価項目を独自に作成しました。
大学DX化の取り組み評価では、この評価項目を元に評価、採点を行っていきます。
大学のDX化におけるメリット
大学のDX化においては、特に学びの自由度と質を大きく向上させるという点が期待されます。DX化のメリットとして、可能になると予想される学びの形について説明します。
- 時間/場所からの解放
授業をオンライン化することで、教員や学生は移動が不要になり、その分の時間を有効活用できます。また、動画での講義やアーカイブを利用すると好きな時間・場所で自由に受講することも可能です。これらの取り組みが進んでいくと、オンライン授業のノウハウが教職員の中に蓄積され、海外ではよくある「社会人になって以降に大学で学び直す」といった、「社会人の学び直し」の取り組みが日本においても普及しやすくなると考えられます。 - 学びの可視化と質の向上
カリキュラムが完全オンラインに対応できれば、受講状況や単元ごとに試験を実施し、結果に応じて学習の習熟度や進行度を可視化することが容易です。特に、大学では1人の教員が100人以上の生徒の対応をすることも珍しくないため、オンライン化により結果的に細やかなチェックが可能となり、体系的な学びの質向上につながると予想されます。
この他にも、大学事務の業務効率化や学生生活の利便化などのメリットが考えられ、大学のDX化は新規学生獲得や教職員の負担軽減に向けても重要な役割を持っていると考えられます。
大学DX化の事例:MOOC
MOOC(Massive Open Online Course)はオンラインで行われるオープンな大学の講義のことです。代表的なプラットフォームとしては「Coursera(コーセラ)」や「edX(エデックス)」があり、日本にも「JMOOC(ジェームーク)」というプラットフォームがあります。
MOOCではさまざまな分野の講義が無料または少額で受講できます。「Coursera」や「edX」では修了証の取得時に支払いが生じる場合がありますが、「JMOOC」では無料で修了証の取得が可能です。修了証は専門性の証明としても活用でき、学びの新しい形として世界的に注目されています。
大学のDX化における課題
- DX化、ICTについての知識不足
DX化を主導する教職員と、利用する学生のどちらについても、DXやICTに関する知識が不足しているケースが考えられます。システムの導入だけでなく、利用者が十分に活用できるように適切な知識を周知していく必要があります。 - インフラの整備コスト
学生各自が個人でデバイスを持ち歩き、作業できる環境を整えることは学生主体の学びに大きな意味を持ちます。一方で、ある程度の作業が可能なパソコンやタブレットを自力で用意するのは学生にとって経済的負担が大きいため、何らかの支援策が必要だといえます。 - 紙媒体のやりとりの多さ
レジュメなどの配布物や掲示物は紙媒体でのやりとりが基本であり、学生向けの掲示板を利用している学校も少なくありません。各種申請も含めて紙を介さないWeb上で情報をやりとりするしくみが必要です。 - 学生本位の取り組みになっているか
DX化による教職員の業務効率化はもちろん重要ですが、大学に所属する人のほとんどは学生であるため、大学のDX化は学生を対象として、学生の利便性に向けてどれだけ取り組みが行われているかがポイントです。 - 言語での対応が可能になっているか
文部科学省の集計によると、大学と大学院を合わせた留学生の割合は約4.6%であり、100人につき4人~5人は留学生です。今後も日本の少子化が進行して学生の減少が見込まれることから、留学生の獲得は大学の将来について重要な観点であるといえるでしょう。
関西学院大学の評価と解説
当社独自の調査項目に照らしあわせた結果、関西学院大学の得点は30点中29点でした。これを受けて、当社は関西学院大学を全国でも特に先進的にDXに取り組む大学の一つとして高く評価しました。関西学院大学は、多岐にわたる産学連携を通じてDXを積極的に進めており、その事例は多数あります。また、「超長期」ビジョン「Kwansei Grand Challenge 2039」に基づき、教育レベルの向上に着実に取り組んでおり、さまざまな方向からDX化を推進しています。
Kwansei Grand Challenge 2039
「Kwansei Grand Challenge 2039(カンセイグランドチャレンジ2039)」は、関西学院大学が創立150周年を迎える2039年に向けて設定した「超長期」ビジョンです。この戦略では、学生が社会で活躍するための知識、能力、資質を身につけ、卒業生が「真に豊かな人生」を送ることを目指しています。
Kwansei Grand Challenge 2039内の共通テーマの1つにDXが挙げられています。デジタル技術を用いて教育・研究の質を高め、業務・サービスを変革することが目的です。具体的に長期戦略として実施されるものは以下の通りです。
- 教育の質の向上
ST比(大学における教員1人当たりの学生数)の改善・シラバスの精緻化・キャップ制(履修単位数の上限設定)の実質化 - ICTによる教育
ICTやAIの活用・学生生活支援における学生のデータを各部署で共有 - 学修支援の充実
多様なニーズに対応する授業外学修支援(ライティングセンターの設置など)の充実・個々に寄り添った学習支援システムの構築 - 革新的な情報環境の構築
ICT・AIの活用によって教育、研究、マネジメントの効率化・学院全体の情報化に関する長期戦略および情報化計画について組織体制の見直し - Evidence-based Managementの推進
データを収集、蓄積して統合・分析、可視化することによって政策の立案や評価の支援・IR(アイアール:教育、研究、財務などに関する大学の活動についてのデータを収集・分析し、大学の意思決定を支援するための調査研究)機能を構築して根拠に基づいた経営
上記は関西学院大学の「kwansei Grand Challenge 2039&中期総合経営計画」内「長期戦略」において進捗(しんちょく)状況を見ることができます。
参考サイト:関西学院大学の「kwansei Grand Challenge 2039&中期総合経営計画」
TAO(The Admissions Office)
関西学院大学は、世界標準モデルの入試システム「TAO(The Admissions Office)」を採用しています。TAOは、Web入試全般を担うコンソーシアム型システムです。学生が一つのフォームで複数の大学に出願できるうえに、すべての申請書類をデジタル化することが可能です。世界中の志願者にとって出願が容易になり、大学側も願書提出の手続きから合格発表まですべて簡単に一括管理が可能なため、業務の効率化が大幅に進められます。
コンソーシアム型システム
コンソーシアム型システムは、複数の組織が協力して共同でシステムを開発、管理、利用する形式のことを指します。このシステムでは、異なる企業や機関が共通の目標や利益のために力を合わせ、リソースや技術、知識を共有します。
コンソーシアム型システムは、個々の組織が単独で行うよりもコスト削減や効率性の向上、専門知識の統合などのメリットがあります。また、異なる分野の専門知識が結集されることで、より革新的で包括的なソリューションを生み出す可能性が高まります。
関西学院大学は、「超長期」ビジョン「Kwansei Grand Challenge 2039」の一環として、デジタル技術を活用して教育・研究の質を向上させ、業務・サービスを変革することを目指しています。この戦略は、デジタル化を通じてポストコロナ時代の変化に対応し、DXを経営の中核戦略とすることに重点を置いており、TAOもこの取り組みの1つです。
参考サイト:The Admissions Office公式サイト
参考サイト:PRTIMES「関西学院大学 「TAO」導入により入試のDXを推進
SmartDB
学校法人関西学院は、業務のデジタル化を進めるために、株式会社ドリーム・アーツの「SmartDB(スマートデービー)」というクラウドベースのシステムを導入しました。このシステムは、申請や決裁のプロセスを効率化することで、教員は教育と研究に、職員はより専門的な業務に集中できるようになることを目指しています。
人事や総務関連の申請業務から始めて、将来的には、対象業務と利用者の範囲を拡大する予定です。利用者数は最大で教員を含む4,500名に達することが見込まれます。
参考サイト:関西学院大学「SmartDB®導入 申請・決裁業務を効率・デジタル化 超長期ビジョン「DX戦略」を推進」
参考サイト:関西学院大学「務効率化の一環としてSmartDB®を導入〜年間5,000件にのぼる申請業務のデジタル化で業務時間を削減〜」
参考サイト:株式会社ドリーム・アーツ「SmartDB」
AI活用人材育成プログラム
関西学院大学のAI活用人材育成プログラムは、AI・データサイエンススキル、プロジェクトマネジメントスキル、プログラミングスキルなどが身に付くプログラムです。実践的な教材を使用し、ビジネス上の問題解決を行うAI活用人材の育成を行っています。このプログラムは、日本IBMとの共同プロジェクトで開発されており、現場で即戦力となるような授業内容が特徴です。
カリキュラムは全10科目から構成され、AI活用入門、AI活用アプリケーションデザイン入門、AI活用データサイエンス入門、AI活用機械学習プログラミング演習、AI活用Webアプリケーションプログラミング演習などがあります。2023年4月から5科目がバーチャルラーニングで開講されています。
関西学院大学のAI活用人材育成プログラムは、文系・理系を問わず初学者でもAI活用人材になれるよう設計されています。このプログラムは関西学院大学の学生以外も受講することが可能です。法人向けの教育プログラムも提供しており、社会人にとって学び直しの良い機会を提供しています。
参考サイト:関西学院大学「AI活用人材育成プログラム」
参考サイト:関西学院大学「AI活用人材育成プログラム 企業・自治体・教育機関向けサイト」
評価項目
今回は、大学の公式ホームページや大学の取材記事などをもとに、DX化に関する大学の取り組みの有無について独自に調査しました。ここでは、採点に利用した30項目を3つの観点について分類した上で、DXにおけるポイントや学生本位となる大学運営について解説します。
方針・施策について(観点①)
DX化を進める上での方針や施策、DX化やICT活用に関する部署の有無、民間企業や行政との連携、プロモーションにおけるメディアの活用など、DX化に向けた組織作りや方向性などが示されているかを評価しました。
- DX推進に向けて独自に取り組んでいる
- 大学独自のデジタル化指針を公表している
- 民間企業との連携によりデジタル化推進の実績がある
- 産学官連携によるDX化のプロジェクト企画が行われている
- 大学でDX人材の育成を宣言、または育成カリキュラムがある
- DX推進課やICT活用室など明確にDX化に関する部署がある
- WebメディアにDXに関する取り組みが取り上げられている
学校業務や授業の効率について(観点②)
大学運営側の視点から、ICTを活用した業務の効率化に関する取り組みについて評価しました。オンライン授業やキャッシュレス決済の導入、予約システムの利用など、授業や業務の効率化・省人化に関するものが主に含まれます。また、近年の生成系AIの学習面での利用について、適切な声明を出しているかについても評価しています。
- 大学内に情報環境の運営をする部署(例:情報センター)がある
- 学内施設(食堂、生協など)の支払いにキャッシュレス決済システムが利用されている
- 施設利用などに予約システムの導入を行っている
- 授業のオンライン化実績が確認される
- 授業のオンライン化が体制化、対面とオンラインのハイブリッド運用が確立している
- BYOD(Bring Your Own Device)を導入している
- ChatGPTなど生成系AIチャットボットの利用に対して適切な指針を表明している
在学生・卒業生・受験生向けの取り組みについて(観点③)
DX化として重要な観点となるユーザー側、大学では学生向けの取り組みで、今回は在学生だけでなく、卒業生や受験生への取り組みも含めて評価しました。証明書類の申請やオープンキャンパスのオンライン化など、大学に関わる人々がよりよく過ごせるような取り組みがなされているかを考慮しています。
- 公式ホームページの更新頻度は3日に1度以上である
- ホームページにアクセスする上でサイトの表示速度が十分にある
- 大学の情報発信を目的としてYouTubeチャンネルを開設している
- 大学公式のSNS(X、Instagram、Facebookなど)の公式アカウントがある
- 大学公式SNSの更新頻度は週1以上ある
- 緊急時などのメール通知機能がある
- 大学(生協を含む)が提供するアプリケーションがある
- moodleなどの学習支援システム(LMS)を活用している
- 在学生や教員はOffice 365などのソフトウェアが使える
- 大学図書館の所蔵資料がWeb上で電子データとして閲覧できる
- キャリア・就職支援についてオンライン相談を行っている
- 在学証明書などの発行をオンラインで申請できる
- オンラインセミナーやオンラインオープンカレッジを実施している
- 同窓会案内など卒業生向けのコンテンツをホームページで確認できる
- オンラインでのオープンキャンパスが実施されている
- 入学試験の出願方法にネット出願が導入されている
これらの評価項目は調査を継続し、随時追加、更新を行っていく予定です。
関西学院大学|調査のまとめ
関西学院大学は、超長期ビジョン「Kwansei Grand Challenge 2039」を軸に、教育と研究の質向上のためDXに注力しています。民間企業との協力でDXを推進する事例が目立ち、デジタル化を進める現代社会と連携を深めています。特に、AI活用人材育成プログラムは、最新のAI技術を活用し、ビジネスと教育・研究の両面での応用を促進しています。これらの背景に基づき、関西学院大学に今後期待される取り組みは以下の通りです。
- 緊急時のメール通知機能
関西学院大学では災害などの緊急時にメールで通知するサービスが見受けられませんでした。緊急時に安否確認のメールが来ることは学生の安全につながります。また子供を通わせている保護者にとっても安心できます。 - 学食内モバイルオーダーシステムの範囲拡大
関西学院大学の学食内「鉄鍋Kitchen」では、クラスメソッド株式会社と連携し、2023年4月10日よりLINEミニアプリを使用したモバイルオーダーを開始しました。現在は学食内の1店舗のみで利用可能ですが、このモバイルオーダーシステムを他の店舗にも拡大することで、学食運営のさらなる効率化が期待されています。
大学におけるRESERVA予約システムの特徴
関西学院大学でも行われているDX化による利便性の向上や、ICT活用による業務の効率化、省人化。こういった課題にかんたんに取り組めるのが「SaaS型予約システムの導入」です。当社が提供する予約受付システムRESERVA(https://reserva.be/)は、26万の事業者・官公庁に導⼊されている国内最⼤級のSaaS型予約システムであり、大学や専門学校などの教育機関でも導入が増えている、最も選ばれている予約システムです。業務の効率化を進めて、より先進的な大学運営の仕組み作りに向け、業務の効率化に貢献します。
教育機関で活用されている予約システム紹介