DX時代の大学教育|広がるオンデマンド型授業の新たな可能性

昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、大学教育にも大きな変化をもたらしています。従来の対面授業に代わり、場所や時間の制約を超えて学習できるオンライン授業が普及し始めました。特に、オンデマンド型授業の拡大は、学生が自分のペースで学習を進められる点で画期的だといえます。しかし、録画や資料を事前に提供する形式は、大学側にとって受講生数の拡大や業務の効率化につながる一方で、教育の質の確保や学生の学習意欲の維持が難しくなるといった課題もともないます。

本記事では、大学DXの中でもオンデマンド型授業をテーマに、そのメリットや課題、そして実際の事例をもとに実践のヒントを考察していきます。

オンデマンド型授業とは

オンデマンド型授業とは、学生が自分の都合のよい時間や場所で学習コンテンツを視聴し、学びを深められる授業形態を指します。これはインターネット上で配信された録画映像や資料を用いるため、教室に足を運ぶ必要がない点が大きな特徴です。近年、ICT(情報通信技術)の急速な進化と大学のDXの推進にともない、その導入が加速してきました。

たとえば、ZoomWebexGoogle Meetなどのオンライン会議ツールを活用したリアルタイム配信授業に加え、オンデマンドコンテンツによって時間と場所の制約をなくすことで、従来の講義形式では困難だった学生の個別学習ペースへの対応が可能となり、大学教育の選択肢がより豊かになってきています。

オンライン授業による取得単位は、文部科学省の「大学等における遠隔授業の取扱いについて」で60単位までと定められています。大学や学部にもよりますが、卒業までの約半分の単位をオンライン・オンデマンド授業で取得して卒業できます。

オンデマンド授業のメリット

オンデマンド授業の導入は、大学にとって多くのメリットをもたらします。ここでは、主に3つの利点を紹介します。

学生の学習の柔軟性向上

オンデマンド授業の最大のメリットは、学生の学習スタイルに応じた柔軟な授業を提供できる点です。従来の対面授業やオンライン授業では、授業時間が固定されているため、学生のスケジュールに柔軟に対応することが難しい場合がありました。たとえば、留学生や社会人学生、遠方から通学する学生にとっては、決められた時間に教室に集まることが負担になる場合もあります。オンデマンド型であれば、授業の録画や配布資料をいつでも視聴・確認できるため、時間や場所の制約を受けにくくなり、多様な学生層に対応しやすくなります。大学側も、こうした柔軟な学習環境を提供することで、より多くの学生が学びやすい環境を整えられるため、教育サービス全体の質を高める効果も期待できます。

大規模な受講が可能

オンデマンド型授業の大きな特徴のひとつは、受講人数にほとんど制限がないことです。対面授業では、教室の広さや席数が決まっているため、受け入れられる学生の数に限りがあります。しかし、オンデマンド型授業は場所の制約がないため、人気のある科目でも多くの学生が受講しやすくなります。その結果、すべての学生に平等な学習機会を提供しやすくなり、大学側も運営しやすい環境を整えられます。さらに、同じコンテンツを使い回すことが可能であり、学期ごとに同じ科目を開講する際などに、一度作成した教材を有効活用できます。これにより、教室や人件費などのリソースを大幅に削減できるだけでなく、海外の学生や社会人向けの公開講座を展開することで、新たな収益源を確保できる点も魅力です。

教員の負担軽減と効率化

オンデマンド授業は、教員の負担を軽減しつつ、教育の質を向上させます。毎年同じ講義内容を繰り返す必要がなくなるため、教員は講義準備にかける時間を大幅に削減でき、その分、個別指導や質の高い教材作成など、これまで手が回らなかった業務に注力できます。大学としても、教員の時間を効率的に活用し、研究や学生指導といった付加価値の高い活動に振り向けることが可能になります。結果として、研究力の向上や学生サポートの充実につながり、大学全体の魅力が高まり、ブランディングにもよい影響を与えます。

オンデマンド授業の課題

オンデマンド授業は大学に多くのよい影響をもたらしますが、いくつかの課題もあります。

学生の学習意欲やモチベーションの低下

オンデマンド型授業は、時間や場所の自由度が高い一方で、学生の自己管理能力が求められます。対面授業であれば、大学に通うことで自然と学習リズムが形成されますが、オンデマンド型授業の場合、スケジュールの調整をすべて学生自身に委ねる必要があります。そのため、モチベーションの維持や計画的な学習が苦手な学生にとっては、学習量の不足や授業の未視聴が増える可能性があります。大学としては受講状況を把握しづらく、学習到達度の確認が遅れるケースもあるため、早期のフォロー体制づくりが重要です。また、学生が孤立して学習を続ける状態を防ぐために、定期的なテストやオンラインフォーラムでの交流を促す取り組みが必要とされています。

リアルタイムの質疑応答が難しい

録画した映像や事前に用意した資料を提供するオンデマンド授業では、ライブ配信とは異なりリアルタイムでの質問やディスカッションの場がありません。こうした学習形態では、学生がその場で疑問を解消できず、理解度に偏りが生じるリスクがあります。大学としては、質疑応答用のオンライン掲示板の設置や、定期的にライブQ&Aセッションを開催するなど、双方向型コミュニケーションを補完する仕組みが求められます。対面授業とオンデマンド授業をうまく組み合わせることで、欠点を補い合う形が理想的です。さらに、学生が積極的に質問や意見交換をできる仕組みがなければ、受け身の学習スタイルが固定化する恐れがある点にも注意が必要です。

教員の負担とコンテンツの質の維持

オンデマンド授業では、コンテンツを一度作成すれば繰り返し使えるという利点がありますが、その作成・更新には相応の労力がかかります。質の高い教材動画を準備するためには、機材や撮影環境の整備、編集作業などを行う必要があり、対面授業の単なる録画では魅力に欠ける場合があります。さらに、学習意欲を喚起する工夫やインタラクティブな要素の取り入れなど、オンラインならではの設計が求められます。これらの作業をすべて教員が担う場合、かえって負担が増大するという懸念もあり、専門の技術スタッフや支援センターとの連携が必須となります。加えて、学期ごとのシラバス更新に応じたコンテンツの見直しや最新情報の反映も必要となるため、コンテンツの質を維持するには継続的な体制づくりが欠かせません。

大学のオンデマンド授業の事例

大学のDX化が進む中、現在オンデマンド授業を実施している大学の事例は、他の大学にとって貴重な参考となります。ここでは、日本国内の4大学における導入事例を紹介します。

名城大学

名城大学では、オンライン授業の質を向上させるため、2020年度より先進的なオンデマンド授業の導入を本格的に進めてきました。その一環として、株式会社フォトロンと提携し、高品質な講義動画の制作および配信システムの構築を行っています。

このシステムでは、最新の映像技術を活用し、講義内容をクリアな音声と高解像度の映像で収録することで、学生が対面授業と同等の学習体験を得られる環境を提供しています。さらに、動画には自動字幕生成機能や講義スライドとの同期表示機能を備えており、学習の効率化を図っています。これにより、学生は自身のペースで学習を進めることができるだけでなく、復習や理解不足の補完も容易になります。

また、本システムはクラウドベースで運用されており、PCやスマートフォン、タブレットなど、さまざまなデバイスからアクセス可能です。これにより、学生は場所や時間にとらわれずに講義を視聴できるため、学習の自由度が飛躍的に向上します。特に、通学が困難な学生や、部活動・インターンシップと学業を両立したい学生にとって、大きなメリットをもたらしています。

近畿大学

近畿大学では、2015年より株式会社ネットラーニングと提携し、オンデマンド授業の導入を進めています。従来の長時間講義をそのまま配信する形式では学生の集中力が続かず、理解度の低下が課題でした。そこで、講義を15分程度の短いセクションに分割し、オープニング映像やセクションごとのテストを導入することで、学習の定着率向上を図りました。

この取り組みにより、授業の理解度は63.3%から71.3%に向上し、科目数も2015年度の19科目から2021年度には88科目へ拡大しました。特に、コロナ禍では短期間で900本の講義動画を制作し、スムーズなオンライン移行を実現しました。今後は、学部を超えた科目選択の自由度を高め、ボランティアや留学、クラブ活動などと両立しやすい環境を整えることで、より柔軟な学習スタイルの実現を目指しています。

早稲田大学

画像引用元:早稲田大学「オンデマンド授業

早稲田大学では、オンデマンド授業を「非同期型授業」と位置付け、学内ポータルや学習管理システムを通じて教材を配信しています。また、オンラインフォーラムやチャット機能を併用し、学生間や教員との双方向型コミュニケーションを促進しています。

総合大学として多彩な学部と学生数を擁する早稲田大学では、その多様性に対応できる授業設計が求められています。そのため、講義映像に加えて、クイズやレポート課題、ディスカッションなどの活動も取り入れ、自主的な学習とインタラクティブなやりとりの両立を目指しました。こうした仕組みは、大学全体の学習データの蓄積や分析にも役立ち、教育改善のサイクルをより効果的に回すことができると期待されています。

参考:早稲田大学「オンデマンド授業

千葉大学

画像引用元:千葉大学「オンデマンド型のメディア授業の実施

千葉大学では、「メディア授業ガイド」を公表しており、オンデマンド型授業を含むオンライン教育の手法やツールを具体的に紹介しています。たとえば、収録映像の音声品質向上のためのマイク選びや、学習管理システムとの連携方法など、教員がすぐに実践できるような実用的な情報がまとめられています。

さらに、学生の学習状況を把握する手段としてテストや小テストのオンライン化を推奨し、受講生が理解度を自己点検しながら学習を進められる設計を導入しています。加えて、オンデマンド型授業における著作権処理についても注意を喚起しており、メディア利用上のトラブル回避に力を入れています。千葉大学は、こうした包括的なガイドを提供することで、教員の負担軽減と授業の標準化を同時に図っています。

大学DXにおける予約システムRESERVAの活用

画像引用元:RESERVA ac

大学DXは授業のオンデマンド化だけでなく、さまざまな範囲で行えます。特に近年、多くの大学で進められているのが予約システムの導入です。その中でも注目されているのが、予約管理システム「RESERVA」です。

RESERVAは、大学のデジタル化を支える最適な予約システムで、業界トップシェアを誇ります。30万社以上が利用し、350以上の業種に対応しているRESERVAは、国公立大学や私立大学など、さまざまな教育機関で広く導入されています。さらに、無料のフリープランから始めることができ、操作がシンプルでわかりやすいため、初めて予約システムを導入する大学でもスムーズに利用することができます。

RESERVAは、サービス提供(スタッフあり・なし)、施設、宿泊施設、スクール・アクティビティ、イベント・セミナーの6つの予約タイプに対応しており、大学のあらゆる場面で利用できます。

まとめ

DXが進む現代の大学教育では、オンデマンド型授業が学生の学びを広げる重要な選択肢となっています。大学側には、大規模受講への対応や業務負担の軽減といったメリットがある一方で、学生のモチベーション低下やリアルタイム性の欠如などの課題も存在します。こうした課題を克服するためには、オンデマンド型とライブ型を組み合わせるハイブリッドな授業設計や、学習意欲を高めるインタラクティブな仕掛けが必要となります。今回挙げた4つの大学の事例を見てもわかるように、各大学は独自の工夫を凝らしながらオンデマンド授業を定着させています。今後もオンライン教育は発展し、あらゆる人に質の高い学びを提供する重要な役割を担っていくことが期待されます。

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