大学DXの最前線|デジタル学生証が生み出す学習・生活のスマート化

大学におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の波は年々加速しており、学内業務のオンライン化やデータ活用の高度化により、教育と研究の現場が大きく変化しています。大学DXの象徴的な取り組みのひとつとして、特に注目を集めているのが学生証のデジタル化です。従来のプラスチックカード型の学生証から、スマートフォンなどのデジタルデバイスを活用した学生証への移行は、学務手続きやセキュリティの向上にも寄与すると期待されています。

本記事では、デジタル学生証の概要、特徴と機能、メリットや課題、さらにはすでに導入している大学の事例などを踏まえて、デジタル学生証の発行がもたらす可能性を考察します。

デジタル学生証とは

デジタル学生証とは、従来のカード型学生証をスマートフォンアプリやウェブサイト上で表示する仕組みに置き換えたデジタルな身分証明手段のことです。物理的なカードを発行・配布せずに、専用アプリやクラウド上で学生情報を管理・認証するため、運用コストや学生証紛失リスクの低減に貢献します。

学内のシステムと連携させることで、図書館利用や学食のキャッシュレス決済、研究室や設備の利用予約など、さまざまな学内サービスへの認証にも活用できる点が大きな特徴です。さらに、新入生の証明書発行手続きや、学部変更・大学院進学などによる学生情報の更新をスムーズに行える点も評価されています。

デジタル学生証の特徴

デジタル学生証の大きな特徴は、リアルタイムな情報更新が可能な点です。従来のカード型学生証では、学生情報の更新が必要なときは再発行やステッカー貼付による対応が求められ、時間やコストがかかっていました。これに対してデジタル学生証は、大学側がクラウド上で情報を修正するだけで、全学生のデバイス上に即時に反映させることができます。

次に、ICチップやQRコードなどを組み合わせることで、学内入退館システムや証明書発行機などと連携しやすいという利点も挙げられます。また、アプリ内でバージョン管理や使用権限の設定が行いやすく、大学が取り扱う幅広いデータを安全かつ効率的に活用できる機能を備えているケースが増えています。

 

デジタル学生証を導入するメリット

学生証紛失リスクの低減と管理の簡素化

学生証を物理的なカードとして所持している場合、紛失や盗難による不正利用のリスクが常につきまといます。特に学生が多い大学では、紛失届けや再発行業務が頻発し、担当部署の業務負荷が高くなる傾向があり、学生側としても受け取りに複数日かかるのが手間でした。デジタル学生証を導入すれば、スマートフォンや個人デバイスでの管理が可能となり、万が一デバイスを紛失した場合でも、大学側がアカウント停止などの遠隔操作で利用を制限できるため、不正利用の危険性を低減できます。さらに、カード在庫の確保や発行コストも削減できることから、長期的に見れば大学運営における経費の見直しにもつながります。

学内サービスのデジタル化と利便性向上

デジタル学生証は、学内サービスとシームレスに連携しやすいため、図書館の利用者認証やラーニングマネジメントシステム(LMS)へのアクセス、学食のキャッシュレス決済など、多岐にわたる機能の集約が可能です。従来のように別々のIDやパスワードを覚える必要がなく、ワンストップで学内サービスを利用できる環境が整います。

また、大学側としては利用状況のデータを一元管理しやすくなるため、将来的な施設やサービスの改善計画にも役立てられます。こうした利便性の向上は、大学の魅力発信や学生満足度の向上につながると期待されています。

証明書発行や学生情報管理の効率化

多くの大学で課題となっているのが、在学証明書や卒業見込証明書など各種証明書の発行業務です。紙ベースでの申請・発行は手間と時間がかかり、年度初めなどの繁忙期には学生も長蛇の列に並ばざるを得ません。デジタル学生証と連動したオンライン申請システムを用いれば、学生はスマートフォンやパソコンからかんたんに証明書の発行をリクエストできます。大学側も学籍情報をデジタル管理していれば、申請の承認や手数料決済などをワンストップで処理可能になるため、大幅な業務効率化が期待できます。さらに、データ解析によって証明書発行の時期や回数の傾向を把握すれば、効率的な人員配置や運営体制の最適化にもつながります。

デジタル学生証を活用する際の注意点

デジタル学生証には多くのメリットがある一方で、注意すべき点もあります。

システムのセキュリティと個人情報保護

最も大きな課題となるのが、システムのセキュリティレベルをどう確保するかという点です。大学には多くの個人情報や研究データが集約されるため、万が一情報流出や改ざんが起きた場合の影響は甚大です。デジタル学生証にアクセスするスマートフォンやクラウドサーバーがサイバー攻撃の対象になる可能性は否定できず、厳格なセキュリティ対策が必要となります。アクセス権限の管理、暗号化技術の導入、定期的な監査体制の構築など、大学ICT部門と外部ベンダーが連携して多層的なセキュリティ対策を講じることが肝要です。また、個人情報保護の観点から、扱うデータ範囲や利用目的を明確にするガイドライン策定も求められます。

スマートフォン未対応者や紛失時の対応

デジタル学生証は、スマートフォンやタブレットなど個人デバイスが必須となるため、全学生が同一の環境を用意できるとは限りません。通信環境や端末の性能に差があるほか、個人的な事情でスマートフォンを所有していない学生も存在します。こうした学生への配慮として、学内キオスク端末の設置や代替手段を確保するなど、柔軟な対応が必要です。また、紛失や盗難だけでなく、故障で端末が使えない場合の対応策もあらかじめ定めておかなければなりません。迅速な再認証や一時的なID発行など、非常時に対応できる運用フローづくりが求められます。

電池切れやシステム障害時のバックアップ対策

デジタル学生証の運用は、スマートフォンなどの端末の電力に依存するため、電池切れ時に身分証明や認証が行えなくなるリスクが考えられます。特に試験会場や講義室への入室時など、デジタル学生証の提示が必須となる状況で電源が入らないとなれば、トラブルが生じる可能性が高いです。加えて、クラウドサーバーやアプリの障害により、一時的に認証機能が利用できなくなるケースも想定しなければなりません。そのため、緊急時に備えて紙媒体や簡易カードによるバックアップ手段を準備するなど、多重化された運用設計が欠かせません。大学側はこうした状況を想定した訓練やマニュアル作成を行い、混乱を最小限に抑える仕組みを整える必要があります。

導入コストと学内インフラ整備の課題

デジタル学生証の導入には、アプリ開発・システム構築、サーバー維持費、学内インフラの改修など、初期投資および運用コストが発生します。限られた予算の中で、どのサービスと連携し、どの範囲の機能を持たせるか、優先順位を明確にすることが重要です。たとえば、図書館のゲートや学内施設の入退館システムをICリーダー対応にするためには物理的なハードウェアの導入や、既存システムとの連携テストが必要になります。また、導入後のシステム保守やバージョンアップにかかるコストも無視できません。こうした課題を解消するためには、大学全体のDX戦略の一環として検討を進め、長期的な視点で効果と費用をバランスよく計画することが求められます。

デジタル学生証が導入された具体的な事例

大学のDX化が進む中、いち早くデジタル学生証を導入した大学の事例は、他の大学にとって貴重な参考材料となります。ここでは、日本国内の4大学における導入事例を紹介します。

東洋大学

画像引用元:東洋大学「東洋大学公式アプリ

東洋大学では、「TOYO PASS(トウヨウパス)」というデジタル学生証システムを導入し、学生の利便性向上と大学運営の効率化を目指しています。従来のカード型学生証に代わり、スマートフォンアプリと連携することで、リアルタイムで学生情報を更新できる仕組みを整備しました。具体的には、学内ポータルと統合し、証明書発行のオンライン申請や施設予約、イベント案内などをワンストップで提供しています。また、QRコード認証を活用し、図書館や学内施設への入退館がスムーズに行えるようになっています。

このデジタル化により、紙ベースでの手続きを減らし、業務効率化とコスト削減を実現しました。今後は、学内決済システムとの連携や、「TOYO-Net」の活用拡大も検討されており、学生証DXを牽引するモデルケースとして注目されています。

大阪大学

画像引用元:大阪大学「デジタル学生証・教職員証について

大阪大学では、2025年1月より、デジタル学生証・教職員証の提供を開始しました。このシステムは、大学公式アプリ「マイハンダイアプリ」と連携しており、従来のカード型学生証の発行・紛失・再発行にかかる手間やコストを大幅に削減します。学生証は、スマートフォンのQRコードやICチップを活用する形で運用され、学内施設の入退室や図書館利用、証明書発行などがスムーズに行えるようになります。特にセキュリティ面では、スクリーンショット対策やリアルタイム無効化機能を導入し、不正利用を防ぐ仕組みを強化しています。

今後は、顔認証やマルチファクター認証を活用した高度なセキュリティシステムの実装を進め、大学全体のDXを推進する方針です。また、キャンパス内のキャッシュレス決済や出欠管理にも対応させる計画があり、利便性と安全性を両立させたデジタル環境の整備が進められています。

慶應義塾大学

慶應義塾大学では、2020年度から伊藤忠テクノロジーソリューション株式会社と提携して「次世代デジタルアイデンティティ基盤」の実証実験を進めており、この一環として、在学証明書や卒業見込証明書をスマートフォンアプリへ発行する取り組みを進めています。

この基盤は、ブロックチェーン技術を活用した分散型ID(DID)と検証可能な資格情報(Verifiable Credentials:VC)を採用し、学生のデジタル証明書を安全かつ信頼性の高い形で管理・提供することを目指しています。これにより、学生はスマートフォン上で各種証明書を取得・提示でき、大学窓口での手続きがオンラインで完結するため、利便性が大幅に向上します。さらに、デジタル証明書の信頼性は第三者によって検証可能であり、就職活動や他大学との単位互換など、学外での活用も視野に入れています。今後は、デジタル学生証の導入を通じて、学生の利便性向上と大学業務の効率化を推進していきます。

琉球大学

琉球大学では、離島を含む広域地域から学生が集まる特性や、交通・通信環境が地域によって異なる事情を踏まえながら、デジタル学生証の導入計画を進めています。導入にあたっては、マイナンバーカードの活用やオープンソースの認証技術との連携も検討しており、学内手続きや成績確認、研究室利用の予約システムなどを一括管理できるプラットフォームを目指しています。

特に、通信環境が不安定な地域やスマートフォンを所有していない学生への配慮を重視し、学内には専用端末やサポート窓口を設置するなど、段階的な対応を進めています。試験運用の段階では、スマートフォンを利用できない学生向けにICカードや紙ベースの代替証明を導入し、緊急時にはバックアップシステムが作動する仕組みを整備しました。今後は、学内での活用にとどまらず、地域行政や産学連携の取り組みにもデジタル学生証を応用し、学生の利便性向上だけでなく、人材育成や地域活性化にも貢献することが期待されています。

大学DXには予約システムRESERVA

画像引用元:RESERVA ac

デジタル学生証などの大学DX推進におすすめのツールである、RESERVA(レゼルバ)を紹介します。

RESERVAは、30万社以上が利用する業界トップクラスの予約管理システムです。350以上の業種に対応しており、国公立大学、私立大学などでも数多く導入されています。この予約システムは、サービス提供(スタッフあり・なし)、施設、宿泊施設、スクール・アクティビティ、イベント・セミナーといった6つの予約タイプに対応しているため、大学のあらゆる場面に最適な形で利用可能です。

予約システムの導入におすすめのRESERVAの詳細はこちらをご覧ください。

まとめ

大学DX化が進む中で、デジタル学生証の導入は大きな転換点となりつつあります。カードレス化による紛失リスク低減や、学内サービスをワンストップで利用できる利便性は、学生だけでなく教職員にも多くの恩恵をもたらします。一方で、導入コストやセキュリティ対策、スマートフォン未対応者への配慮など、慎重に検討すべき課題も存在することは確かです。実際に導入を進める大学の事例を見ると、部分的な機能から段階的に導入を進めながら運用体制を整備しているケースが多く見受けられます。今後は、各大学が自らの教育目標や学生像、インフラ環境に合わせて最適解を探りながら、デジタル学生証をはじめとするDX施策の展開が求められます。

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